荒川河川敷に来た。行きのR254と同様に淡々と続く心折れそうな単調なコース。風を受けないので土手下の道を走るようアドバイスされた。正確にいうとスタッフの指示を聞いたランナーからの伝え聞きである。足の重さから、いちいちスタッフのところへいくのも億劫になっていた。このへんの地理に詳しくないが何の迷いもなく走れる道だ。それゆえに足の痛さはつらい。何キロはしっただろうか。たぶん3-4kmしか走ってないと思う。ほぼ歩きに近い状態になっていた。はるか前にもはるか後ろにも人が見えない。孤独感がわいてきた。

そんなとき、「いかさーん」と呼ばれた。振り向くと傘をさしたMさんがいた。Mさんは駅伝チームの仲間で大江戸小江戸参加ランナーだったが小江戸の途中で無念のリタイヤしたはずだ。わざわざ応援しに来てくれたのだった。今頃まで雨の河川敷で待っていてくれたというのに感動した。大半のランナーは通過したはずだ。「私」を待っていてくれたのだ。ツイートを読んで膝痛も知っていたらしい。寒いだろうからといってアクエリアスを温めたものをポットにいれて持ってきてくれた。その心遣いがうれしい。感謝感謝感謝。涙が出る。雨をしのいで橋のたもとでありがたく頂戴した。

しばらく行くと、またしても知り合いの女子ランナーが向こうから走ってきた。最初はスタッフかと思った。踵をかえして私といっしょに伴走してくれた。暖かい励ましの言葉も元気づけの言葉をたくさんもらった。なんか今日だけで一生分の激励をもらったような気分だった。彼女と別れても膝痛は続く。ペースはあがらない。スタート前、折れない心が大事だと聞いていた。ここで折れるわけにはいかない。応援していただいた方々に失礼である。

「俺は折れない、俺は折れない、俺は折れない、、、、、、、、、、、、、、、絶対に折れるもんか、こんちくしょう、俺は折れない、俺は折れない、、、、、、、、、、、」

100回以上、マントラを口に出して自分を鼓舞した。涙があふれてきた。何でだ?足が痛いから?みんなの応援がうれしいから?くやしいから?チカラが欲しいから?自分の心が整理できない。でも整理なんかする必要もない。なんでもいいからそれをバネにしてゴールまで辿り着きたかった。涙が枯れるころ、河川敷はようやく終わっていた。あれ、秋ヶ瀬エイドは通過していなかったな。(本当はエイドでタイムスタンプしないといけないのだが今回は2か所で装置に故障があったらしくゆるゆるのレースに助けられる)なぜか一本道なのに見つけられなかった。ここからはバイパスのような大きな道に沿って川越を目指す。

ここで新たな大敵が出てくる。体がぶるぶる震える。寒い。「低体温症!」箱根駅伝で聞いた言葉だ。冷え切った体でぶっ倒れるというやつだ。歩くようなスピードだから汗冷えが激しい。体温を上げるには走る必要がある。しかし、膝痛で走れない。完全にジレンマに陥った。下手をすると死ぬと思った。身体を温めるために必死になって腕ふりをした。肩がかったるくなっても振り続けた。死ぬのいやだから。

思考力はかなり落ちていたと思う。地図を広げる気にもならない。すでにくちゃくちゃになっているし。今一番大事なことは、はるか前にいるランナーグループを見失わないこと。彼らについていかなければ糸の切れたタコになる。イカがタコになる。シャレにならない。人間て、追い詰められると絶対はずせないことはできるものだ。前方にいるランナたちーが最後かもしれない。むしゃぶりつくように食い下がった。そのせいか、走れるようにもなってきた。内緒の話だが信号無視(前後の車は確認した)もしたし、道路横断もした。なんでもした。前を走るランナーたちがすべてなのだから。

いつの間にか、前のランナーグループに追いついていた。残り時間は30分を切っていた。グループのベテラン風のにいちゃんが言う。「ぎりぎりまにあいそうです。がんばりましょう!」
そうか、間に合うのか、間に合うのか!最後の力を振り絞ればなんとかなる。いける、いける。最後の3kmは鬼の形相じゃなかったのか。川越の街に入る。めざせ、連けい寺!めざせ、ゴール!必死に駆け抜けた川越の街、ゴールすることだけを考えて走ったラスト1km。ざんざん降る雨の中をやっとのことで感動のゴール!!
時間は18時間56分。制限時間4分前の滑り込みセーフ。

やればできる!為せば成る!

マラソンは楽しい!

人生は楽しい!

ウルトラ万歳!

みんな、ありがとーーーーー!!!!

(おわり)

皇居の途中にこしあすエイドがある。竹橋をちょっとはいったところ。時間は朝六時をすこしまわっている。エイドのなかはすごくあたたかい。というか蒸し暑い。けっこう混んでいて座る場所がない。熱いそうめんとおにぎりをいただく。そしてコーラを飲む。ウルトラとコーラは相性がいいと思うようになった。ここでは5分ほど休んで飛び出す。皇居を一周して東京へ向かうのだ。注意すべきは桜田門。ジョギング練習の時は桜田門の中へ入る。しかし、これだとまた一周してしまう。正解は桜田門へは入らず祝田橋を直進するのだ。 東京駅を横切って日本橋側へ行く。もう通行人が増えてきた。日本橋から馬喰町、浅草橋へと進む。ここまでで60km。足はぱんぱんになってきている。唯一の関門がスカイツリー下のおしなりエイド。ここに9:00に到達する必要がある。到着は8:00だった。知り合いの女性ランナーがエイドをやっていたので記念撮影。元気をもらう。外に出たらまた知り合いのランナーが応援に駆け付けてくれている。ほんとうにそこにいるだけで元気がもらえるのがうれしい。この感覚はランナーじゃないとわからないだろうな。このころから膝が痛くなりだした。ロキソニンを飲んだが全然効果がない。我慢して歩を進める。 浅草寺で証拠写真をとって本郷へ向かう。東大の赤門前も通る。実は赤門を見たのは生まれて初めてだ。このへんから東京十社ランのコースとかぶってくるので心強かった。しばらく行くと後ろから声がかかる。応援の女子ランナーが差し入れを持ってきてくれた。熱いオニオンスープをいただく。五臓六腑にしみわたる。なによりも膝痛のボッチランナーには心強い限りだ。こうやって物理的に精神的に元気をもらいながら走るのがウルトラなんだと痛感する。とてもひとりでは走り切れない。 王子を過ぎたあたりから足が重くなる。完全にびっこを引くようになっていた。女子ランナー3名とゆるゆるのデッドヒートを赤羽まで繰り返す。妙に意地をはるところがあって言葉はかわさない。こんな抜きつ抜かれつも面白いもんだ。浮間船渡あたりにくると雨が激しくなってきた。シューズがクチュクチュいっている。キャップのツバから雨水が垂れる。気温が下がり汗冷えが心配になってきた。85km地点。まだまだ先は長い。 しばらく雨の中を行くと最後のなか卯が目に飛び込んできた。うどんを食べて冷えた体を温めたかった。そして足を少し休ませてあげたかった。なか卯がこんなにも神々しく感じられたことはなかった。注文したかき揚げうどんを一気に平らげた。もう時間がない。すぐに出発だ。雨の中を荒川河川敷に向かって足を引きずりながら走り出した。

ブログネタ
あなたが風刺画を描くとしたら誰を描く? に参加中!
商店街を信号運よく走り抜けた私はいつの間にか先頭集団にいた。集団のみんなはそれなりにペースが速く常連のように思えた。地図をザックにしまっていた私は出すのも面倒臭く彼らについていくことにきめた。いわゆるコバンザメ走法である。やがてR254に出る。ここからは迷いはない。まっすぐ走れば東京までいける。地図で見るととてつもなくまっすぐだ。

しかし、初めて走る道なので目に入る夜景はそれなりに面白かった。先頭集団なのに前を走るフラフラな人たちがいる。きっと小江戸大江戸組いわゆるダブルのランナーだ。小江戸を終わって大江戸に入っているのだ。まだまだ元気な私は追い抜くたびに「ファイト〜」と声をかける。すると「ウェーい」、というような声にならない声が返ってくる。そうだろうな、100km近く走ってるんだから無理もない。そうやって何人か追い抜いた時だ。身体か宙に舞い、胸に軽い痛みを覚えた。

またやっちまった。転倒だ。

ついた手は擦り傷程度。顔や足は無傷だ。今追い抜いたダブルのランナーに大丈夫ですか?と声をかけられる。かっこ悪いったらありゃしない。すくっと立ち上がって平気平気だいじょーぶと応える。気が張っているので胸の痛みは最後まで感じなかった。大江戸はハンドライトもしっかりつけて注意深く走る必要がある。とくに歩道はでこぼこしていて危険だ。車道も危険だから夜は走らないほうがいい。

道は朝霞に差し掛かる。ここではあったかそうななか卯の店内でうどんが食べられるのだが、まだ食欲は湧かない。せっかく席はすいているのだがスルーした。国道といってもあまりコンビニはない。水も食料もないと心細い。途中、うさちゃん頭巾の女子三人組と並走する。仲間できゃっきゃ言いながら楽しそうに走っている。オヤジは黙ってぼっちラン。後で思ったんだけど気が紛れるからウルトラはボッチじゃない方がいい。

長い長い254も30km走ると終わりになる。右折して東中野を越えて成願寺エイドに向かう。時刻は2時をまわっている。こんな夜中に歩いてる奴も結構いる。あいつらカタギじゃないな!って勝手に詮索する。俺は古い人間だからね。下り坂の途中に成願寺エイドはあった。小走りにエイドに飛び込む。35km地点。時刻は3時。

コーラをガバガバ飲む。寒いのに美味しい。小さなおにぎりも三つほど頬張る。アーモンド、クリームパン、オレンジ、結構食べた。これからエネルギー勝負と思うと入れるだけ入れておきたかった。エイドのおばちゃんから元気をもらって出発。

ここからはまっすぐ先を左折して都庁へ向かう。都庁の石碑がチェックポイントになっていて証拠写真を撮らなきゃいけない。不正防止のためだ。都庁からは東京タワーに向かう。代々木、原宿、六本木ときらびやかなところを走る。原宿あたりが42km。フルマラソンならゴールだがまだ70kmもある。

どこにも気さくなおじさんというのはいるもので都庁からは気さくなおじさんランナーと一緒だった。若い女の子とペアランしてたが私がいても快く喋りかけてくる。東京タワーまで一緒だった。東京タワーもチェックポイントなので証拠写真をぱしゃり。このころから雨粒が落ちてきた。やっぱり来やがった。問題はどこでレインウェアを着るかだ。次のエイドは皇居。かなり距離がある。新橋あたりのビルの下で雨をしのぎながらレインウェアを装着。通気性がないので暖かい。さぁ、皇居までひとっぱしり。夜はしらじらと明けてきた。いつのまにか夜明けのスキャットを口ずさんでいた。(つづく)

↑このページのトップヘ